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技術コラム

【粉体】粉体シミュレーション その2 数値シミュレーションに必要な情報

2020年07月16日

前回は、数値シミュレーションでは、簡単な仕組みについて説明しました。
まだ読まれていない方は、 粉体シミュレーション その1 数値シミュレーションとは をまずはお読みください。
それでは、今回は実際に数値シミュレーションを実施するために、必要となる情報について紹介していきます。

目的

数値シミュレーションを実施するためには、まずなんと言っても「目的」が必要になります。
何のために数値シミュレーションを行うのかが明確でない場合、膨大な計算を行い、闇雲に時間だけが過ぎてしまいます。
数値シミュレーションは、あくまでもツールに過ぎないので、使用する目的を明確にしましょう。

例えば、「混合機内を可視化したい」という目的だけで解析を始めると、もちろん計算が完了して混合機内を可視化することはできますが、計算結果が何の役に立つのか分からないことがあります。
同じ混合機内のシミュレーションを行う際にも、「混合機内への仕込み量の違いによる生産効率を評価したい」と、目的を明確することで、仕込み量の異なる解析を実施して、各結果を比較することにより生産効率の評価ができ、生産プロセスの改善につながることが分かります。

対象領域

数値シミュレーションでは、無限の領域を計算するわけではなく、計算の対象となる領域を制限して取り扱います。
対象の領域のことを「計算領域」や「解析領域」と呼びます。
もちろん、計算領域が広くなると計算の負荷が高くなりますので、コストや時間がかかってくることになります。

一方で、計算領域を狭くすると領域外の影響を無視することにより、現実との乖離が発生する要因にもなりえます。
数値シミュレーションを上手く活用していくためには、目的に合わせて解析結果に影響のない範囲で対象領域を絞っていくことがポイントになります。

環境条件

環境条件とは、解析したい対象が存在する周囲の状態を表す条件のことです。
環境条件には、温度、湿度、風量などに加えて、装置形状や運転状態も条件に含まれます。
解析の結果が現実と乖離してしまう原因の1つとして、環境条件が想定している周囲の状態を上手く設定されていないことがよくあります。

数値シミュレーションを実施する前に、解析したい対象がどのような環境に置かれているのかをしっかりと観察、整理することをお勧めします。
環境条件は一般的に、「初期条件」と「境界条件」の2種類に分けることができます。



初期条件
初期条件とは、解析前の対象の状態を表現する条件のことです。
例えば、対象を加熱処理して、目的の温度に達するまでの時間を解析したいとします。
その場合には、加熱前の対象の温度が初期条件となります。
もちろん、初めから目的の温度に近い状態では、加熱にかかる時間は短くなりますし、目的の温度から離れていれば加熱には長い時間を要します。
そのため、実際の環境に合わせて初期条件を設定しなければ、本来の目的の結果を得ることができなくなります。

一方で、実は初期条件に依存しない問題も世の中には多く存在します。
例えば、時速60kmで走行中の自動車周りの空気の流れ解析などです。
自動車が時速30kmから徐々に加速しても、時速90kmから徐々に減速しても、時速60kmで安定して走行している状態には違いがないため、その周りの空気の流れは同じになります。
この様に初期条件に依存しないような問題は、時間に依存しない定常解析として取り扱うことが多いです。



境界条件
数値シミュレーションでは、計算の対象領域と非対象領域の境目や物質の境目を「境界」と呼びます。
計算領域の内側と外側の境目が境界の中の1つということです。
その他にも、各部品の壁面も境界として取り扱います。
境界条件とは、このような境界上の状態を表現する条件のことになります。
境界では、外部からの影響を直接考慮できないため、境界条件として外部の情報を設定します。

例えば、ガスコンロで鍋の中の水を温める解析を考えてみましょう。
ガスコンロで噴射されたガスが燃焼して鍋の底に炎が照射されることによって鍋が加熱されますが、鍋内の水の解析には、燃焼までを考慮することはありません。
ガスコンロによって与えられる熱量を外部の情報として鍋の底に設定すればよいということです。
もちろん、ガスの噴射によっては、炎の広がりにバラつきが出たりするので、熱量の分布などを考慮する場合も出てきます。

物性情報

物性とは、密度や強度、粘度などの物質の性質を表すものです。
解析内容によって必要な物性情報も異なるため、対象の物質に対してあらゆる物性情報が必要かというと、そうではありません。
例えば、流体シミュレーションの場合には密度と粘度、熱シミュレーションの場合には、熱伝導率、比熱、輻射率などが物性値として必要になります。

また、一般的に物性値は温度などの周囲の環境により変化するものです。
例えば、気球の浮力を計算する場合は、温度上昇(周囲環境)により気球内の空気が膨張する(密度が下がる)ことを考慮しなければ解析することができません。
一方で、周囲環境への依存性が小さい場合や、周囲環境の変化が小さい場合には、依存性を考慮する必要はありません。
依存性の情報は取得するのも難しいため、目的に応じて用意するようにしてください。

終了条件

終了条件とは、当たり前のようですが、計算の終了を判定する条件のことです。
終了条件としては、時間や計算回数、計算中の値などを用います。
加熱プロセスを例に挙げて、どのような終了条件があるのかを説明していきましょう。

5分間の加熱後の対象の温度を知りたい場合、解析している現象の経過時間を確認して、経過時間が5分(以上)になった時点で計算が終了となります。
次に対象の温度が100℃になるまでに要する時間を知りたい場合には、計算中の対象の温度を確認して、100℃(以上)になった時点で計算が終了となります。
さらに、対象の温度が何℃まで上昇するのかを知りたい場合には、温度が一定になるまで計算することになります。
つまり、計算中の対象の温度の変化量が小さくなった時点で計算が終了となります。

この様に、同じ加熱プロセスでもあっても、目的に応じて終了する条件が異なることを理解いただけたかと思います。
例えば、終了条件の時間設定が十分な長さでない場合、最終温度を評価すると、まだ温度上昇中である可能性があるため、正しい評価ができなくなります。

解像度

解像度とは、対象をどれだけ細かく確認したいのかという情報になります。
なかなかわかりにくいですが、解像度は数値シミュレーションにおいて、切っても切り離せない項目になります。
粉体シミュレーション その1 数値シミュレーションとは で紹介した「離散化」のお話の通り、解像度を細かくすると計算精度は高くなりますが、一方で計算時間は長くなります。

ここで解像度とは、何も空間的な離散化の間隔だけではなく、時間的な離散化の間隔も含まれています。
単純な例を挙げると50mを走る人の位置を1秒間隔で観測するのと0.5秒間隔で観測するのでは、後者の方が途中の変化を2倍細かく捉えることはできますが、2倍(以上)の処理時間が必要になります。
数値シミュレーションでは、精度と時間がトレードオフの関係にあり、そのバランスを見出すのが難しいとされています。



シミュレーションの種類によって、各項目の呼び方や具体的な項目は異なってくるので注意が必要です。
これらのカテゴリを意識しながら情報を整理してみると、数値シミュレーションに取り組みやすくなると思います。


[From K. Yamaguchi]

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