今回は、構造解析に関係するトピックを過去の事例をもとにご紹介していきます。
COLUMN
技術コラム
【構造】Vol.2 身近な例で構造解析 ~風で橋がなぜ壊れてしまったのか?~
突然ですが、「風だけで橋が崩壊」したという事故を皆さんご存知でしょうか?
ご興味のある方は「タコマナローズ橋」と検索すればその時の動画も出てくるのでぜひ確認してみてください。
橋が信じられないくらいに大きく揺れて変形し、最終的には崩壊するに至っています。
当時、この橋は高強度の橋という触れ込みで施工されており、開通してまだ4か月だったそうです。
なぜこんなことが起きてしまったのか、当時のいきさつは以下の通りです。
・早朝から風により橋桁部分に振動が生じた。
・風速が19m/s に達した途端、それまでの波打つ振動から大きくねじれる揺れに変わった。
・このような揺れが1時間ほど続いた後、橋が座屈して落下した。
このあと、原因を調査したところ大きく次の2つが挙げられたそうです。
・橋桁の剛性が不足し、たわみやすくまたねじれやすい。このため、簡単に振動が始まってしまった。
・橋桁の形状が空気力学的に不安定であり、橋桁の端で空気の剥離が起こり、発生タイミングが橋桁の動きと一致してしまい、揺れが増幅されてしまった。
1つ目の要因ですが、橋の簡単な構造を示します。
橋の構造は、橋桁(車が走る道の部分)をワイヤーで上から吊るすという非常にシンプルな形状です。
中央のスパンは853m あるのに対して、橋桁の幅は車道 2 車線と両側歩道とあわせて11.9mしかなく、長さに比べて幅の狭い橋であったと記録されています。そのため剛性が非常に低く、橋桁そのものが変形しやすい状態にあったということです。
この橋の設計では橋桁の強度、剛性についてはあまり重視されておらず、橋桁を吊り下げているワイヤーの伸縮でそのたわみを吸収する、つまりは橋桁にかかる負荷は実質ほぼ皆無という発想だったそうです。
さらにいえば橋桁に生じる小さな変形を考慮しただけのものだったため、今回のように大きく変形し、なおかつねじれる動きが発生するケースには対応ができなかったということです。
2つ目の要因については、橋桁を真横から見たときに端面が平坦な状態だったことがわかります。
これにより、橋桁を挟んで空気の渦が発生しやすくなってしまいました。
これらの要因があり、まず橋桁は①のように波打つ揺れから始まりました。さらに時間がたち、風速が挙がったタイミングで②のように橋桁がねじれる動きがでてきました。
風の渦が橋桁周りに発生し、橋の動きと周期があってしまったことにより、ねじれが増幅されて最終的に橋が崩壊しました。
今回のように剛性が低い板のモデルで簡易的にCAE解析で見てみましょう。
あえて厚みと幅の小さい橋桁をイメージした板を固有値解析し、振動を与えた際にどのような動き方で揺れやすいか(モード)を見ていきたいと思います。
1次から3次のモードを確認すると以下の通りです。
次モードのところを見ると、ねじれるような動きのかたちが出ていることがわかると思います。今回橋が壊れたときに出ていた橋の揺れ方はこの2次モードのような振動モードの時に出ているものと考えられます。
この解析結果からもそもそも板状のものは、波打つ揺れ方のほかに、ねじれる揺れ方をしやすいことがわかります。
ただの車の通り道程度の考え方で橋桁を考えてしまうと、荷重を受けた際、もしかすると大きくねじれるような動きが発生する可能性は十分に考えられますね。
この崩壊事故は、「無知」ではなく「未知」の現象により発生したものだったようです。
(誰も風の力で橋が変形し、その変形が増幅されることを想定していなかった。)
しかしながらこれを機に、橋の設計は風による振動を想定されるようになり、現在では台風で発生するような強風でも壊れなくなるようにに進歩しています。
CAE解析者としては、このような「未知」の部分を早期に予測し、対策を打てるようになっていきたいですね。
ここまで、読んでいただきありがとうございました。
[From K. Mikuni]
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