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技術コラム

電子機器の熱設計 温度測定について【熱設計vol.9】

2024年09月24日

製品設計において、解析結果と実験結果との間に誤差が生じると、設計工数や品質といった観点で問題となります。
誤差が生じる理由として、下記の3つ等が考えられます。

(1) 解析モデルの不完全性
(2) 数値計算の誤差
(3) 実験の不確実性

(3)には、測定精度の向上が求められます。特に熱設計の現場では、温度測定の精度向上が重要となります。
今回は、熱電対を使って、簡易的なECU基板とその素子の温度測定を行った事例をご紹介します。熱電対による温度測定のポイントを押さえて実験した場合(1回目)と、そうでない場合(2回目)で結果を比較しました。

実験環境と動作条件

■ 実験環境
図1に実験の様子を示します。安定化電源、発振器、分流器、シャント抵抗器、ECU基板、データロガーなどを事前に結線しました。測定の際は、外部の気流の影響を受けないよう、防風箱の中に基板を設置しました。


図1:実験の様子


表1に使用した各機器の型式を示します。


表1:各機器の型式

図2に基板の各素子の名称を示します。


図2:基板の各素子の名称


■ 動作条件
図3に測定対象の素子と熱電対の貼り付け状態を示します。熱電対を素子に設置する際には、先端を銅テープで覆い、その上から樹脂テープで覆って固定しました。基板、HSOP、TO252_1-a,bの4か所で温度を測定しました。


図3:熱電対設置箇所


2回の実験では、HSOPのみ熱電対の這い回しを変更しました。その他の箇所では熱電対を適切に這い回しました(図4)。
・1回目の測定時:HSOPに取り付けた熱電対を基板に這い回した状態で測定。
・2回目の測定時:HSOPに取り付けた熱電対を基板に這い回していない状態で測定。

図4:HSOPに取り付けた熱電対の素線の状態


各素子の発熱量[W]は表2のように設定しました(同一の値でないのは測定機器の都合です)。


表2:各素子の発熱量[W]


実験結果

表3に、熱電対を設置した4か所の温度Tと室温(25℃)からの温度上昇ΔTを示します。HSOPのみ熱電対の這い回し条件を変更しています。

表3:設置した熱電対の温度測定結果


1,2回目の結果を比較すると、TおよびΔTの差は、黄塗りで示すHSOPで3.35[℃]、TO252_1-aで0.05[℃]、TO252_1-bで0.14[℃]、基板で0.58[℃]となりました。ΔTの差を考えると、HSOPでは6.7%の差となりましたが、その他素子では差はほとんどありませんでした。

図5にサーモグラフィの熱画像を示します。1回目と比較して2回目の測定時は、HSOPに取り付けた熱電対の温度が低いことが分かります。それ以外の箇所の温度分布は1,2回目で一致しています。熱電対の素線が基板から浮くと、周囲の空気に接して低温となります。素線が低温となると先端部分(HSOP取り付け部分)との温度差が生じるため、熱電対を介した放熱が起こり、先端部分の温度が低下します。このような原因で、1,2回目でHSOPの測定温度に差が生じたと考えられます(表3 黄塗)。

図5:サーモグラフィの画像


本現象を理論的に考察します。1次元の熱伝導の公式は式(1)で表されます。
これを熱電対に置き換えると、式(2)のようになります。



よって、温度測定誤差を小さくするには、熱引きQを小さくすることが重要です。以下3つのポイントがあります。

1. 熱伝導率が低い型式(K型等)を使用する(λを小さく)
2. 細い熱電対を使用する(Aを小さく)
3. 素線を等温線に這いまわす(T1-T2を小さく)

本コラムでは、K型で素線径0.013mmの熱電対を使用したので、上記1,2を満たしています。上記3について、2回の比較実験から、T1-T2を小さくするために素線の這い回しが重要であると示すことができました。

[From Y.Komiya, K.Sugahara]

・参考文献
1)国峰尚樹 エレクトロニクスのための熱設計完全制覇 日刊工業新聞 2018
2)篠田卓也, 自動車エレクトロニクス「伝熱設計」の基礎知識 -小型高性能化する自動車用電子制御ユニット(ECU)の熱対策技術-, 日刊工業新聞社, 2021



熱電対 K型、素線径0.13mm
データロガー HIOKI LR8450、U8552
安定化電源 菊水 PWR401L
発振器 NF DF1906
分流器 自作
シャント抵抗器 自作
サーモグラフィ AVIO R550 

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