昨今、あらゆる電子機器で高機能化・高密度化が進み熱の問題が顕著に現れるようになってきています。これまで自然空冷で十分であった装置も強制空冷での放熱が不可避になるケースも増えてきているのではないでしょうか。今回のコラムでは強制空冷機器の放熱設計をテーマとして、熱設計におけるファン活用のポイントや熱流体解析を行う際の注意点をまとめます。
COLUMN
技術コラム
熱設計におけるファン活用のポイント【熱設計vol.8】
電子機器放熱設計におけるファン活用のポイント
■ 強制空冷機器の設計手順を抑えよう
強制空冷機器ではおおまかに下記の手順で机上の設計検討が可能です。
1. 総発熱量と空気の許容温度上昇から必要な風量を見積もる
先ず使用するファンやファンの台数等、必要風量の見積もりを行います。電子機器の総発熱量W、筐体内の平均温度をTa、筐体の周囲流体温度をT∞としたとき、その機器において必要な換気風量Qは下記の式で概算できます。(発熱は全て換気で放熱されると想定)
これはファンを取り付けると最大風量の50%~70%程度の実効風量しか得られないという経験に基づく式です。
2. 各発熱体周囲の流速と空気温度から発熱体の許容温度を超えないか確認
発熱体の温度は風量ではなく、周囲の流速によって決まります。先ずは1で概算した風量と断面積から流速を求めます。算出した流速から発熱体の温度上昇を計算します。
・発熱体周囲の流速
・強制対流平板の熱伝達率(層流)
・発熱体の温度上昇
ここで、
V:流速[m/s]、Q:風量[/s] 、A:断面積[]
L:発熱体の流れ方向の長さ[m] ΔT:温度差[K]、W:発熱量[W]、h:熱伝達率[W/(・K)]、S:表面積[]
3. 許容温度を超える場合は風量・風速の増加手段を検討
2で発熱体の許容温度を超える場合、風量・風速の増加手段を検討します。例として以下のような検討を行います。
・熱源を分割して発熱体の熱流束を小さくする
・流路設計の見直し
・ファンの変更
■ 強制空冷機器の流路パターンと注意点
強制空冷機器の流路は隅々まで喚起しつつ、発熱体に必要な風速を与えるように設計しなければなりません。できるだけ少ないファンでこれを実現するために、いくつかの流路パターンと注意点を挙げます。
パターン1 筐体内の1空間に発熱体を実装するタイプ。 通風抵抗を小さくできるが、空間が広いと風速が低下する。 ファン近くに吸気口を設けてしまうと流れのショートカットが発生するので要注意。 |
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パターン2 流路断面を1つのダクトのように構成する流路パターン。 流路が狭いため全体にわたって流速を高めに維持できるが、通風抵抗が大きくなりやすい。 下流が温度上昇しやすいため、途中に吸気口を設ける。 |
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パターン3 複数の発熱体を1つのダクトで吸気して冷却するパターン。 ファンからの距離によって発熱体を通過する風量が変わる。 風量の分布を均一化するにはダクトの断面積を大きくする必要がある。 |
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パターン4 プリント基板等を並列実装するパターン。 パターン3の類似型だが、ファンを複数台使用すれば各発熱体の風量は均一化される。 |
■ PUSH型ファン、PULL型ファンのメリット・デメリット
ファンを筐体に取り付けるにはPULL型(機器の内部空気を排出する)、PUSH型(機器の内部に外気を押し込む)の2つの方法があります。
それぞれにメリット・デメリットがあるため機器の条件によって方式を選択します。
【流体】熱と流れの不思議vol.10 PUSH型ファン・PULL型ファンの比較検討
■ 強制空冷機器ではダクト効果を有効活用しよう
強制空冷機器と自然空冷機器では放熱設計の考え方が異なります。自然空冷では浮力による自助作用で流体が移動し温度が下がるため、流れを邪魔しないように設計します。一方で強制空冷では温度が上がりそうな場所を予測して、積極的に流れをコントロールしなければなりません。
例えば、図1に示すような自然空冷機器では筐体上下に必要な通風口を設けるだけで基板は自己冷却します。発熱体の無い部分は流速が出ません。しかし、図2に示す通りファンをつけて強制空冷すると空気は流れやすいところ(流れ抵抗が小さい部分)を流れようとします。それによって発熱体の実装密度の高い部分(流れ抵抗が大きい部分)では空気は流れにくくなり、発熱体の温度が高温になってしまいます。
強制空冷機器において、ファンで駆動した流体が発熱体を迂回してしまう問題については、図3のようにダクトを設けることで改善を図ることができます。
ダクトを設置することによる放熱効果の検証事例は下記URLからご覧いただけます。
【流体】熱と流れの不思議vol.11 強制空冷機器におけるダクトの効果について
ファンを使用した電子機器における熱流体解析のポイント
■ ファンのモデル化手法
熱流体シミュレーションでファンを取り扱う場合、一般的には回転体解析機能を使用する方法(CAD形状を回転させる)、ファンの簡易モデルを使用する方法(平面に対してP-Q特性を定義する等)があります。より厳密に流れを解析したい場合は回転体解析機能が適していますが、計算負荷も大きくなる傾向にあるため、計算時間を短縮したい場合はファンの簡易モデルを使用します。
■ ファン簡易モデル使用時の注意点
1. 旋回流の考慮
ファンの吹き付けで部品を冷却する場合には旋回流の考慮が必須です。旋回流を考慮しないと流れの拡がりが再現できず、実現象との乖離が大きくなります。使用している解析ソフト・モデル化手法において、旋回流が再現・考慮されているか事前に把握しましょう。
2. ファン形状のモデル化
局所冷却用のファンは風速が重要になります。例えば熱流体解析ソフトSimcenter FLOEFDにおけるファン簡易モデルではCAD平面に対してP-Q特性を定義するモデル化を行っています。この場合、風速はP-Qカーブから決まる風量を定義面の面積で割ることで算出されます。そのため定義面のCAD面積が実際のファンの吹き出し口の面積と乖離していると誤差の要因となります。使用している解析ソフト・モデル化手法の風速・風量の計算方法を事前に確認し、誤差要因を把握することが重要です。
例)Simcenter FLOEFDの場合
まとめ
今回のコラムでは、強制空冷機器の放熱設計をテーマとして、熱設計におけるファン活用のポイントや熱流体解析を行う際の注意点をまとめました。
[From K.Okano]
・参考文献
国峰尚樹 エレクトロニクスのための熱設計完全制覇 日刊工業新聞 2018
関連ページ
・ 熱設計支援サービス
https://www.sbd.jp/consulting/thermal_design_consulting.html
・ 3次元CAD統合型 熱流体解析ソフトウェア|Simcenter FLOEFDシリーズ
https://www.sbd.jp/products/flow/floefd.html
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