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技術コラム

電子機器の熱設計 TIMについて【熱設計vol.7】

2024年08月06日

画像:電子機器の熱設計 TIM

 近年の電子機器設計において問題となっている要素として「放熱」があげられます。放熱が適切に制御されていない場合、製品の機能低下や故障、寿命低下を招きます。したがって、放熱促進を目的にファンやヒートシンク、TIMなどの様々な機構が実装されています。これらの放熱機構の中でも今回のコラムでは「TIM」に注目してみました。

TIMとは

 TIM(=Thermal Interface Materials)とは、電子機器内部の発熱源と放熱部の間などに挟み込んで使用する材料の総称です。具体的には、ICチップとヒートシンクの間に挿入することで接触熱抵抗を低減し、効率的に放熱するアイテムなどです。表1に示すように、TIMには液状のサーマルグリースや固体の熱伝導シート、相変化するものなど、様々な種類があります。要求される放熱性能や搭載環境によって、TIMを選定します。
(熱抵抗:熱の伝わりにくさの値)
(接触熱抵抗:固体同士の界面における熱抵抗)


表1 主なTIMの種類
(参考 国峰尚樹 エレクトロニクスのための熱設計完全制覇 日刊工業新聞 p231 2018)


TIMの市場動向

 電子機器の小型化や半導体の高集積化などに伴う熱対策のために、TIMの需要は拡大しています。また、近年普及が進んでいる電気自動車 や5G通信機器の製造分野おいても需要が高まっています。電気自動車の場合ではエンジン車と異なりバッテリー、インバーター、モーターなどの発熱源があり、それらと冷却部材の間にTIMを充填することで放熱性能を高めています。自動車業界では放熱ギャップフィラーの注目が高まっているようです。これは、放熱ギャップフィラーがディスペンサー※を用いて自動実装可能であり、量産ラインへの導入が容易なためです。このように、業界のトレンドや使用環境によって適したTIMが選定・実装されています。
(※ディスペンサー:液体や高粘度のペーストなどを定量、定速で塗布する装置)

熱設計とTIM

 熱設計の際のTIMに関する検討事項としては、発熱源の発熱量や温度、TIMの種類や性能を考慮した各部品の配置などが挙げられます。具体的には、「TIMによって発熱源の温度をどの程度下げることができるのか?」「素子の発熱が周辺素子にどの程度影響するか?」「どのようなサイズ・素材のTIMを使用すべきか?」など、検討するパターンは非常に多く複雑となります。そこで、今回はTIMを実装した電子機器のモデルで解析を行い、放熱に及ぼすTIMの有無や性能の影響を検討しました。

■ 解析概要
 設計者向け熱流体解析ソフト”Simcenter FLOEFD”を使用し、簡易的なECU(=Electronic Control Unit)を対象としてTIMによる放熱の影響を解析しました。

■ 解析モデル
 使用したモデルを図2に示します。黒枠は計算領域です。本モデルは電子基板と筐体、ケーブルからなります。筐体の上側面にはヒートシンクが付いています。水平配置、自然空冷を想定しています。

図2 ECUモデルと計算領域


筐体内部の電子基板と各素子を図3に、各素子の発熱量とTIMの有無を表2に示します。TIMは熱伝導シートを仮定し、図4の水色で示すように、筐体-素子モールド間(上側)、筐体-基板間(下側)に実装し、完全接触しているものとしました。

図3 基板と素子名称


表2 各素子の発熱量とTIMの有無


図4 TIMの実装状態(断面図)


 本ECUではT1が電源回路のスイッチング素子、C1・C2がその電解コンデンサとして機能しています。T1は比較的発熱量が大きいこと、電解コンデンサは高温になるほど短命となる素子であることから、以下の3ケースの解析を実施し、T1, C1, C2の放熱に及ぼすTIMの影響について検討しました。

ケース1:T1にTIMを実装しない
ケース2:T1にTIMを実装する
ケース3:T1に熱伝導率を高くしたTIMを実装する(1.5 W/(m・K) → 6.0 W/(m・K))
(※熱抵抗は熱伝導率に反比例)

 表3にその他の解析条件を示します。外部壁面に一律で5W/(m2・K)の熱伝達係数を与え、自然空冷をモデル化しました。


表3 その他解析条件

■ 解析結果
 図5に基板の表面温度のコンターを、表4にT1、C1、C2の最大温度を示します。


図5 基板表面温度コンター図


表4  T1、C1、C2の最大温度


 T1に注目すると、表面温度はケース1と比べてケース2の方が低くなる結果となりました。また、最大温度はケース2の方が10℃程度低い値となりました。これは、TIMによって筐体への放熱が促進されたためと考えることができます。TIMの熱伝導率が高くなると、T1の温度はさらに4℃低下しました(ケース3)。
 続いて、C1, C2に注目します。C1, C2自身は発熱しないため、周辺素子の発熱によって温度上昇しました。ケース1の温度分布を見ると、T1の発熱の影響でC1, C2も温度上昇したと考えられます。T1にTIMを実装したケース2では、T1のみならずC1, C2の温度上昇も抑制され、それらの最大温度は3℃低下しました。TIMの熱伝導率を高くすると最大温度はさらに2℃低下しました(ケース3)。

 続いて、TIM実装によって得られる放熱のメリットに加え、コストについても考えてみます。一般的に、TIMのコストは熱伝導率の高さに比例します。例えば、今回のケース2からケース3のように、熱伝導率が4倍になるとコストもその分大きくなります。
 また、TIMの実際の性能(接触熱抵抗)を決める要因は熱伝導率だけでなく、密着性や挟み込み圧力、厚みなど多々あります。よって、得られる性能と掛かるコストのバランスからTIMを選定し、熱設計に活用することが重要となります。

まとめ

 今回のコラムでは、熱設計におけるTIMについて取り上げ、解析ではTIMの有無や熱伝導率の違いによる放熱効果の違いを検討しました。
[From T.Karatsu, K.Sugahara]

・参考文献
国峰尚樹 エレクトロニクスのための熱設計完全制覇 日刊工業新聞 2018



解析タイプ 内部流れ+ふく射+重力考慮、定常解析
デフォルト流体 空気
環境温度 25℃
外部壁面熱条件 熱伝達係数5W/(m2・K)
TIMの熱伝導率 1.5 W/(m・K)
6.0 W/(m・K) ※ケース3のみ

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