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技術コラム

【粒子法】Vol.18 MPS法を用いた脳動脈瘤のCFD解析

2023年03月16日

概要

粒子法流体解析ソフトウェアであるParticleworksを使用して、脳動脈瘤付きの脳血管モデルに対する血流解析を実施しました。

緒言

脳血管疾患は悪性新生物(がん)、心疾患、老衰に次ぐ日本人の主な死因の一つです[1]。脳血管疾患の中でも、くも膜下出血は発症者の約3割が死に至り、死を免れた場合でも残りの約3割は重度の後遺症が残ると言われている危険な疾患です[2]。脳動脈瘤は脳血管の一部が袋状または紡錘状に変形した部分を示します。くも膜下出血の多くは脳動脈瘤が破裂することが要因であると報告されています[3]。

しかし、脳動脈瘤の発生、成長、破裂といった病態メカニズムは未だに解明されておらず、病態メカニズムの解明のために多く研究がなされています。脳動脈瘤の進行メカニズムには病理学的な要因や形態学的な要因のほかに、血行動態が関与していると考えられており、流体シミュレーションを用いた調査が注目されています[4]。また、流体シミュレーションの活用は脳動脈瘤の病態メカニズムの解明だけでなく、治療の判断基準や治療効果の予測・評価、治療デバイスの開発などに対しても効果が期待されています[5,6]。

今回のコラムでは、脳動脈瘤の血行動態を評価するために、脳動脈瘤付きの脳血管モデル形状に対して粒子法による流体シミュレーションを実施しました。

方法

解析モデルを以下に示します。SidewallタイプとBifurcationタイプの2つの脳血管モデルを解析モデルとしました。双方とも血管径は4 mm、脳動脈瘤サイズは10 mmとしました。また、壁面は滑りなし条件としました。

図1 解析モデル(左:Sidewallタイプ、右:Bifurcationタイプ)

物性値および解析パラメータを以下に示します。血液[7]はニュートン流体としました。流入流量は一般的な成人の内頚動脈における平均流量[8]を定常流として与えました。

表1 物性および解析パラメータ



評価パラメータとして、脳動脈瘤に加わる壁面せん断応力を評価しました。血流による血管壁面のせん断応力は多くの先行研究[9]において、血管疾患の病理学的要因との関与が示唆されている主要な評価パラメータの一つです。

結果

解析結果のアニメーションを動画1に示します。初期状態として血管を満たしていた血液を青色、流入してくる血液を赤色で示しています。

動画1 解析結果のアニメーション(左:Sidewallタイプ、右:Bifurcationタイプ)

物理時間1.0秒における、血管の中央断面における血液の速度コンターおよび速度ベクトル図を図2、3にそれぞれ示します。

図2 速度コンターの中央断面図(左:Sidewallタイプ、右:Bifurcationタイプ)

図3 速度ベクトルの中央断面図(左:Sidewallタイプ、右:Bifurcationタイプ)

物理時間1.0秒における脳動脈瘤の壁面せん断応力のコンター図を図4に示します。また、物理時間1.0秒における平均値・最大値・最小値をまとめた表を表2に示します。

図4 脳動脈瘤における壁面せん断応力
(左:Sidewallタイプ、右:Bifurcationタイプ)

表2 物理時間1.0秒における脳動脈瘤の壁面せん断応力の
空間的な平均値・最大値・最小値



考察

動画1よりSidewallタイプは脳動脈瘤内部において血流の滞留が起きやすいことが示唆されました。脳動脈瘤内部に流入した血液の平均滞留時間の経時変化を図5に示します。図6のグラフからSidewallタイプの平均滞留時間が大幅に長いことが分かります。Bifurcationタイプでは上流の管が脳動脈瘤の開口部に対して垂直に位置しているため、脳動脈瘤へ流入しやすい形状であったことが考えられます。一方、Sidewallタイプでは上流の管と脳動脈瘤の開口部の角度が緩やかであり、脳動脈瘤内部へ流れが入り込みにくかったことで、滞留時間が長くなったと考えられます。

図5 脳動脈瘤内部における血液の平均滞留時間

また、表2より、今回使用したモデルではSidewallタイプはBifurcationタイプのモデルよりも壁面せん断応力の平均値および最小値が小さく、最大値が大きいことが示されました。図2,3よりBifurcationタイプでは脳動脈瘤の壁面全体に向かって血液が流れていることが分かります。その結果、Bifurcationタイプでは血流が壁面に衝突する面積が大きくなり、Bifurcationタイプの壁面せん断応力の平均値と最小値が大きくなったと考えられます。一方、図2,3よりSidewallタイプでは脳動脈瘤の局所部分に血流が集中して衝突していることが分かります。今回のSidewallタイプのように流れが集中して脳動脈瘤壁面に衝突するような脳血管の場合、脳動脈瘤の壁面せん断応力が局所的に大きくなることが考えられます。

結語

脳動脈瘤付きの脳血管モデル形状に対して粒子法による流体シミュレーションを実施した結果、以下の知見が得られました。

・Sidewallタイプの脳動脈瘤はBifurcationタイプの脳動脈瘤よりも脳動脈瘤内部における血流の滞留が起きやすい可能性があります。
・今回使用したモデルでは、上流の流路と脳動脈瘤の開口部が垂直に位置しているBifurcationタイプの脳動脈瘤の方がSidewallタイプの脳動脈瘤と比較して、脳動脈瘤壁面におけるせん断応力の空間的な平均値および最小値が大きくなりました。
・局所的な血流が壁面に衝突するような脳動脈瘤では壁面せん断応力の空間的な最大値が大きくなる可能性があります。

[From Y.Yamanaka]

参考文献

[1] 厚生労働省, 令和3年(2021) 人口動態統計月報年計(概数)の概況
  https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/geppo/nengai21/dl/gaikyouR3.pdf
[2] Brisman, J.L., et.al., Cerebral Aneurysms, N Eng J Med. 2006, 355(9), pp.928-939.
[3] Van Gijn, et.al., Subarachnoid hemorrhage. Lancet. 2007, 369(9558), pp.306-318.
[4] Yagi, T., et.al., Systematic review of hemodynamic discriminators for ruptured intracranial aneurysms, Journal of Biorheology, 2019, 33(2), pp53-64.
[5] Fujimura, S., et.al., Hemodynamics and coil distribution with changing coil stiffness and length in intracranial aneurysms, J Neurointerv Surg. 2018, 10(8), pp.797-801.
[6] Uchiyama, Y., et.al., Hemodynamic Investigation of the Effectiveness of a Two Overlapping Flow Diverter Configuration for Cerebral Aneurysm Treatment, Bioengineering (Basel). 2021, 8(10), pp.143.
[7] Qian, Y., et.al., Risk analysis of unruptured aneurysm using computational fluid dynamics technology: preliminary results. AJNR Am J Neuroradiol. 2011, 32(10), pp.1948-55.
[8] Ford, M.D., et.al., Characterization of volumetric flow rate waveforms in the normal internal carotid and vertebral arteries, Physiol Meas. 2005 ,36(4), pp.477-88
[9] Meng, H., et.al, High WSS or low WSS? Complex interactions of hemodynamics with intracranial aneurysm initiation, growth, and rupture: toward a unifying hypothesis, AJNR Am J Neuroradiol. 2014, 35(7), pp.1254-62.

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