今回の流体コラムでは、商用航空機周りの圧縮性流れの解析について紹介します。SOLIDWORKS Flow Simulationのパラメータスタディ機能を使用して、一般的な巡航飛行条件下での空力性能を調査します。
COLUMN
技術コラム
【流体】商用航空機周りの圧縮性流れ
背景
航空機の性能を予測するためにCFDがますます使用されています。揚力と抗力性能は迎え角に非常に依存しています。迎え角とは、飛行方向と航空機の水平基準との角度です。航空機は通常、特定の迎え角で最大の効率で運用されるよう設計されています。この解析ではSOLIDWORKS Flow Simulationのパラメータスタディで迎え角を変更し揚力と抗力について効率が最大化するポイントを特定します。
課題
圧縮性流れは、衝撃波の存在によりCFDで正確にシミュレートするのが難しいことで知られています。衝撃波の位置では、速度、圧力、温度の急激な変化を考慮するために、詳細なメッシュ分割が必要です。さらに、翼形の性能を解析する際に、すべての空力面で境界層の正確なモデリングが重要です。これらの複雑な流れ特性を正確に解決するには、通常非常に細かいメッシュが必要です。これに伴い、解析に必要な計算リソースも増加します。
解析概要
・解析の目的
この解析では、SOLIDWORKS Flow Simulationを使用し、圧縮性空気力学問題における揚力と効力の特性が正しくシミュレーションされていることを確認します。
・解析モデル
この解析では、公開されているNASA CRMのジオメトリをWing-Body-Nacelle-Tail(翼・胴体・ナセル・尾翼)構成で使用しました。垂直尾翼はモデル化されておらず、風洞モデルではその位置に支柱があります。NASA CRMは実際の商用航空機(Boeing 777)に基づいており、超音速流れの領域内で運用するように最適化されています。今回は解析の簡略化とスピードアップのため、エアフレームの中央線に沿った対称境界条件と組み合わせて、半スパンモデルのみを使用します。
・解析条件
以下の条件は、超音速航空機の典型的な運用条件です。
・高度:10,000 m
SOLIDWORKS Flow Simulationはこの高度の自由流れ条件をUS Standard Atmosphereに従って定義しています。
・静圧:26,500 Pa
・静温:-49.90°C
・マッハ数:0.85
・メッシュ
メッシュはSOLIDWORKS Flow Simulationのカットセル法を使用して、400万セルから成る六面体メッシュを生成しました。ローカルメッシュはエアフレーム全体、特に機首と翼表面、および下流に定義しました。
この解析ではメッシュ依存性の検証は行いませんでした。なぜなら、これは32GBのメモリを搭載したPCで行ったため、メモリがメッシュの複雑さに関して制限要因であったからです。メッシュ依存性の検証をするには、おそらく消費者向けのPCでは対応できないほど細かいメッシュが必要でしょう(2000万以上のセル)。
・解析のゴール
航空機の最も重要な空力性能は次のとおりです。
揚力係数・CL ⇒ 運動方向に対する垂直方向の空力を測定し、航空機を空中に保つ
抗力係数・CD ⇒ 運動方向に対する水平方向の空力を測定し、航空機の運動を妨げる(燃料消費の主要要因)
揚抗比・CL/CD ⇒ 航空機の空力効率を測定する指標
収束のための解析のゴールとして、全エアフレームに対する進行方向Xと重力方向Zの平均力(FX・FZ)を設定しました。
FXとFZから揚力と抗力(L、D)を三角法を使用して計算できます。
CLとCDは次の式を使用して計算します。
ρ | 自由流れの空気密度 (kg/m3) US Standard Atmosphereでは、10,000 mの高度での空気密度は 0.413 kg/m3 |
---|---|
v | 自由流れの速度 (m/s) US Standard Atmosphereでは、10,000 mの高度での音速(Mach 1.0)は299.53 m/sです。 したがって、Mach 0.85 = 0.85 * 299.53 = 254.60 m/sです。 |
Sref | 航空機の基準面積 (m2) NASA CRMは半スパンの基準面積が297,360 in2 (191.844778 m2)です。 |
以下の迎え角(α)の値について揚力と抗力の性能を解析しました。
0°、2.5°、5°、7.5°、10°、12.5°、15°、17.5°
これは航空機が飛行できなくなる失速点を含むαの範囲全体をカバーしています。
解析結果
揚力係数、抗力係数、揚抗比のシミュレーション結果は下記の通りです。
シミュレーション結果から、CDは全範囲でαと共に増加することがわかりました。CLはαが15°まで増加し、それ以上ではCLが減少し始めることがわかりました。α = 15°の場合の翼周りの流線と流れ軌跡を解析することにより、翼の全体上面で流れの分離が発生し、つまり翼が失速したことがわかります。その結果、揚力が減少し、抗力がさらに増加します。
解析したすべてのケースのうち、CL/CDはα = 2.5°で最も高く、12.4/1の値を持ち、対応するCLは0.435です。近年のほとんどの航空機はα = 2~4°で飛行するよう設計されており、この結果と一致しています。ただし、NASA CRMはCL = 0.5で最大CL/CD比18.9/1を持っていると報告されています。シミュレーション結果を外挿することで、CL = 0.5はおおよそα= 3°で発生すると推定できます。α= 3°での最終シミュレーションを実行し、CL/CD値を取得し、NASA CRMの公表値と比較しました。
流れ軌跡からわかるように、翼の上面には流れの分離がなく、流れは流線型のままで、効率的な流れになっています。流れの軌跡から 2 つの重要な特徴がわかります。
1. 翼の下流および内側のダウンウォッシュ
2. 翼端の下流で渦を巻く
これらは揚力と抗力のパフォーマンスに影響を与える重要な流れの特徴です。
α= 3°での結果は次のとおりです。
CL = 0.519
CD = 0.0302
CL/CD = 17.2/1
CL/CDは、公表値の18.9/1より9.0%低いです。この差はおそらく、翼周りの境界層を正確に解像できるだけのメッシュ密度が不足していることが主な原因です。メッシュ独立性の調査を行い、適切なメッシュを使用してこの解析を再実行すれば、より正確な結果が得られるでしょう。
しかし、重要なことは、揚力、抗力、揚抗比の傾向が適切に捉えられていることです。最大効率と翼の失速が発生するα値はどちらも予想の範囲内です。流れ軌跡と流れのパターンも予想通りで、翼の上面での流れの分離は、αが増加するにつれて翼の根元の後縁から始まり、前方および外側に進行します。
まとめ
SOLIDWORKS Flow Simulationを使用して、業界標準のNASA CRM遷音速航空機ジオメトリの空力性能を調査しました。圧縮性流れソルバーは、遷音速流れ領域の複雑な流れ特性を適切にモデル化し、妥当な揚力と抗力結果を生成することができました。約400万セルの比較的小さなメッシュを使用して、NASA CRMの実際の値である18.9/1から9.0%以内の最大揚抗比17.2/1を得ました。
[From Jason Matthews KOK SHUN]
備考
NASAはCRMを作成し、商用航空機の揚力と抗力性能に関する風洞データをCFDソルバーで検証する共通プラットフォームとして提供しました。本コラムで使用したジオメトリは以下からダウンロード可能です。
https://commonresearchmodel.larc.nasa.gov/
NASAの公開コンテンツの利用規約は下記をご参照ください。
https://www.nasa.gov/multimedia/guidelines/index.html
航空機の基準面積は下記を参照しています。
https://ntrs.nasa.gov/api/citations/20080034653/downloads/20080034653.pdf
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