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技術コラム

【流体】いまさら聞けない熱流体用語Vol.2 プラントル数/熱拡散率/熱伝導率(前半)

2024年12月16日

この流体コラムでは、『いまさら聞けない熱流体用語』として熱流体の用語を説明します。まずは無次元数(レイノルズ数・プラントル数・ヌセルト数・グラスホフ数など)編です。物理現象は複合的な要因で起き、無次元数と物理現象を一対一対応させた議論は難しいですが、各無次元数と関係性の深い物理現象を例に説明します。
そもそも無次元数の特徴としては、下記が挙げられます。


・変数を減らせる、単位系に依存しない式が導ける
・物理量の比として定義され、現象の本質的な特徴を表している


無次元数を理解することは物理的意味を理解するということにつながります。



プラントル数とは

プラントル数は、動粘性係数(流体の動きにくさ)と熱拡散率(熱の伝わりやすさ)の比を表す無次元数です。流体固有の値を持ちます。
プラントル数は下記の式で表されます。




プラントル数は温度境界層厚さに対する速度境界層厚さの比に密接に関連しています。(温度境界層とは、固体と流体に温度差がある場合の接触領域で温度が大きく変化する層のこと。速度境界層とは、粘性がある流体が物体の周りを流れた場合に、粘性によって物体接触領域に形成される速度が小さい領域のこと。) プラントル数の解釈についてですが、プラントル数が大きいことは伝熱性能(固体流体間の熱伝達)の観点では一般的に有利と言えます。


・流体の動きに対して熱の伝わり方が小さくなる、すなわち熱が流体にとどまりやすくなるため伝熱面との熱交換が促進される
・粘性の高い流体は伝熱面での滞留時間が長くなり、熱交換の機会が増加する


なお、実際の伝熱性能はプラントル数以外にレイノルズ数や対象物等複合的な要因があります。
※レイノルズ数に関しての記事はこちら
【流体】いまさら聞けない熱流体用語Vol.1 レイノルズ数/層流・乱流/カルマン渦



また、「熱拡散率」と「熱伝導率」の関係式は以下の通りです。

「熱伝導率」は熱の伝わりやすさ、「熱拡散率」は熱の伝わる速さです。「熱拡散率」の単位[m^2/s]を見て分かる通り、[s]時間があり熱の伝わる速さを表しています。




上表の通り、「熱伝導率」は空気より水のほうが大きいです。同じ40℃でも空気より水のほうが熱く感じるのは空気よりも水の「熱伝導率」が高いのが「一つの要因」となっています。(※詳しくはヌセルト数編で説明します。)逆に空気は非常に「熱伝導率」が小さいため、二重窓やダウンジャケットをはじめとする断熱的な効果を発揮します。
※「熱伝導率」の小さい空気が接触面間に存在することで生じる「接触熱抵抗」について詳しくはこちら
【流体】接触熱抵抗とは その2 ~接触熱抵抗の推算式~


一方上表の通り、「熱拡散率」は水より空気のほうが大きいです。 水より空気のほうが温度変化が速いということですが、温度変化が速いということと熱の伝わりやすさである「熱伝導率」との違いは何でしょうか?

次回の【流体】 いまさら聞けない熱流体用語のコラムではプラントル数の後半の内容は、熱の伝わる速さと熱の伝わりやすさは具体的にどう違うのかについてです。 熱流体解析ソフトFLOEFDを用いて「熱伝導」と「熱拡散」の違いを「温度定常までにかかる時間」と「定常時の温度分布」から説明します。



余談:マントル対流とプラントル数

マントル物質の粘性率は極めて高いため、流れの慣性力が無視されるすなわちマントル対流のシミュレーションではプラントル数を無限大と近似する場合があるそうです。 一般的にマグマは液体、マントルは固体と分類されますが、地学の学問においては地球という大規模な時間スケールの中だと非常にゆっくりと流動するマントルは流体として考えられるとのこと。 時間や大きさのスケールで解析の考え方が変わるいい例ですね。



まとめ

・プラントル数は流体固有。流体の流れにくさと温度の伝わりやすさの相対的な関係を表す無次元数
・「熱拡散率」は熱の伝わる速さ、「熱伝導率」は熱の伝わりやすさ
・熱の伝わる速さと熱の伝わりやすさは次回詳しく説明します


[From T.Okamoto]



参考文献

1)日本機械学会 JSMEテキストシリーズ 流体力学 丸善出版 2014
2)マントル・ダイナミクス 観測者および理論から見たマントルの構造と熱・物質輸送  中久喜伴益



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