CASE
株式会社日本製鋼所 様 導入事例
流体解析ソフト 「Particleworks」導入事例
(左から)澤田朋樹氏、部長 富山秀樹氏、福澤洋平氏
「Particleworksの活用により、装置開発の効率化、品質向上を実現。
顧客からの信頼度アップ、売上増、ブランド力の向上にも繋がりました」
創業1907年と100年をゆうに超える長い歴史を誇る日本製鋼所。メイン事業は二軸混練押出機、フィルムシート製造装置、射出成形機などの樹脂機械の分野では世界トップを誇る総合プラスチック機械メーカーである。2009年、プラスチック成形過程においてこれまで装置内で可視化できなかった挙動の解析を目的としてParticleworksを導入。その結果、プラスチック成形機全般で解析が可能になり、装置の品質向上や顧客に対する自社製品の説得力がアップ、売上増やブランド力の向上にも寄与した。Particleworks導入の詳しい経緯やParticleworksに対する評価、今後の展望などを、導入から機能開発まで関わっている株式会社日本製鋼所 技術開発部 部長 の富山秀樹氏に語っていただいた。
兵器メーカーから世界一の総合プラスチック機械メーカーへ
― まず御社の事業内容について教えてください。
我が国は明治維新以来、大砲などの武器をイギリスからの輸入に頼っていました。しかし、日清戦争の戦火が激しさを増すにつれ、国内での大砲の製造の必要性も叫ばれるようになりました。これにより、1907年、国策事業として、北海道炭礦汽船株式会社と英国アームストロング・ウイットウォース会社、ビッカース会社の3社共同出資によって設立されたのが当社の始まりです。
太平洋戦争後は兵器メーカーから、エネルギー産業向けの機械やプラスチック機械を製造するメーカーへと転身。思惑通り高度経済成長でプラスチックの需要が急増し、会社は急成長。現在ではプラスチック製品を作るための二軸混練押出機、フィルム・シート製造装置、射出成形機などを製造する産業機械部門をメイン事業とし、世界トップシェアを誇る総合プラスチック機械メーカーにまで発展しています。
― シミュレーションソフト「Particleworks」を知ったきっかけは?
工業化検討のスピードアップが必要な状況で、新しい解決策の1つとしてシミュレーションの調査をしており、シミュレーションを活用している会社がカンファレンスやセミナーで講演をするという情報を得ては話を聞きに行きました。他社での活用例で「Particleworks」が有用なソフトであることが分かりましたし、操作体験セミナーで実際に「Particleworks」に触らせていただいて弊社でも役立つことを確信でき、5つの課題も解決できそうだったので導入に向けて動き始めました。
高粘性流体の解析が可能になったことで本格導入
― Particleworksを導入した経緯は?
そもそもプラスチック成形とは、機械内で原料を【1】溶かす→【2】流す→【3】冷やす→【4】固める、という一連の工程を経ます。この中の【2】の流す工程で、非充満というか自由表面が形成されることが多いのです。
この問題に対して長らく有限要素解析を行っていたのですが、あくまで充満系を前提としていたので、いつもこの解析結果が機械内部で起こっている現象と本当に合っているのかという議論になっていました。ずっとこの自由表面問題が解ける解析ツールを探していたのですが、2009年頃、粒子法(MPS法)という解き方を使ってこの問題を解ける汎用ソフトが出たという情報が入ってきました。いろいろ調べると2001年頃から付き合いのあった構造計画研究所(KKE)が総合販売代理店として扱っていることがわかったので、担当者に連絡して詳しく話を聞きました。
ただ、その時聞いた話ではこのソフトの解析対象は低粘性流体でした。プラスチックが溶けた流体は高粘性なので、それでは使い物になりません。ですので、その時は「プラスチック業界にParticleworksを広めたければ高粘性流体を解析できなければ絶対ダメだ。それができるようになったら導入する」と担当者に伝えました。
その旨をKKEの担当者がParticleworksの開発元のプロメテックに伝えたところ、まだソフトが開発されたばかりであったこともあり、開発者が高粘性対応のプログラムをすぐに組んでくれました。早速当社の押出成形機で試験的にシミュレーションしたところ、その解析結果は実際に押出成形機の内部で起こっていた現象と概ね一致したのです。これにより、機械内で起こっている実際の挙動が予測できることがわかったので、正式に導入したというわけです。
そもそも当社は当時から頻繁に新しい解析法を開発したり導入したりしていたので、プラスチック業界内で注目され、押出成形やフィルム成形の分野ではシミュレーションの技術が高いメーカーだと認知されていました。そんな当社が粒子法のParticleworksを導入したことで、プラスチック業界の注目を一気に浴びました。導入後2年間はどこに行ってもその話題で持ち切りだったほどです。
▲二軸混練押出機の解析結果 (高粘性流体と低粘性流体の比較) |
粒子法で正しい挙動を予測できた
― 実際にParticleworksを導入していかがでしたか?
正直、導入当初はできないことだらけで苦労しました。しかし、その後、KKEに改善要望点を伝えるとどんどん使い勝手がよくなりました。さらに年々、パソコンのCPUやGPUの性能向上やParticleworksの高速化によって、より細かい粒子の解析が可能となり、スムーズな界面状態が表現できるようになりました。また、解析できる現象の種類も増え、現在では、二軸混練押出機や射出成形機、フィルムシート成形機など、ほぼすべての装置の解析・予測をParticleworksで行っています。
特にフィルムシートの場合は、例えば幅1m、厚み0.1~1mmなどの薄くて幅の広いラップのようなものが何枚か積層されています。3つの層がすべて同じ厚みで形成されなければならないのですが、それを装置の中で作るのがすごく難しいのです。原料の粘度が同じであればきれいに積層されて流れるのですが、粘度が高い物と低い物を混ぜて積層させると、粘度の低い端の方が厚くなって中央の方が薄くなるという挙動が出るのです。
この解析を有限要素法で行うと厚みの変化の計算が難しくてうまくいかないのですが、粒子法のParticleworksを使うと粘性力が界面の力のバランスをきちんと解いてくれるので、正しい挙動を予測することができたのです。
▲ニュートン流体の多層流動解析 (従来評価できなかった包み込み現象がParticleworksで予測可能に) |
― 操作性などの使い勝手に関してはいかがですか?
ユーザーインターフェイスもわかりやすく、簡単なので使い方で困ったことはほとんどないですね。扱いやすいと感じます。
不良の減少、作業時間短縮、装置の説得力の強化、ブランド力向上にも寄与
― Particleworksを導入してよかったと思う点や得られた成果は?
数多くあります。まずは、それまで使用していた有限要素法ではあくまで仮定の元で評価するしかなかったのですが、非充満状態も現実に装置内で起こっている現象と合致しているし、混練するところも比較的妥当だったので、特に非充満部が多い二軸押出機のスクリュ解析でブレイクスルーがありました。
また、プラスチックの流体は溶かして流すフェーズで装置内の壁面などに少しくっついたり流れが悪くなったりすると、ヒーターからの熱を受け続けて劣化して煤けたり色が変わってしまいます。この問題を解決するための方法としては解析が最も適しています。以前は不良品が出てから解析するという後追いの解析だったのですが、Particleworks導入後は装置を設計・開発する段階で解析できるようになったので、不良の件数そのものが確実に、劇的に減りました。
▲単軸スクリュ温度実験と解析結果の比較 (Particleworksで実験結果を再現) |
しして、昨今、ドローンや電気自動車を作るための材料開発が猛スピードで進んでいて、次から次へと新しいプラスチック材料が出てくるので、それに対応すべく装置もどんどんモデルチェンジしていかなければなりません。お客様から、その未知の材料がうまく混ざって望む物性が得られたら当社の装置を購入すると言われた時、いくら実験しても埒が明かないというケースが昔からあります。その際、シミュレーションを使って最適な混練を導き出すための解析をするのですが、その幅がParticleworksを導入してから広がりました。さらにシミュレーションの導入により実験が減ったので、開発期間も大幅に短縮できました。これらにより、理論的な製品開発が確実かつスピーディーに進み、受注増にも繋がっています。
さらに、解析結果の表示がきれいでわかりやすいという点もParticleworksの最大の強みの一つです。解析結果を3ds MaxというCGソフトを使ってCG処理をして3Dとして見せられるので、誰でもぱっと見ただけで装置内で起こっていることがわかります。これにより、お客様に当社製の二軸混練押出機や射出成形機などの装置を売り込む際の説得力が増して、受注増に繋がっています。そして、当社がシミュレーションを使ってここまで装置を綿密に最適設計しているとお客様にご理解いただくことで安心感と信頼感をもってもらえ、最終的にはブランド力向上にも寄与していると思います。
▲ギアポンプによる樹脂流動解析 |
― ほかにParticleworksのメリットはありますか?
開発元のプロメテックが、流体だけではなく粉体解析など新しい機能をどんどん開発して機能が増えていく点も大きなメリットの一つですね。プラスチックの原料は米粒のような物なので、固体の挙動の解析も必要。その解析もできるツールがそれまでなかったので、大いに役に立ちました。
ユーザーのためにここまで親身になってくれるベンダーは他にない
― KKEの評価についてお聞かせください。
KKEとの付き合いはParticleworks導入のかなり前、2001年からなのですが、当時から担当者がすごく親切で、わからないことがあって連絡すると親身になって対応してくれるのです。レスポンスも早いし、担当者が単なる販売代理者ではなく、ソフトウェアのことを深く理解しているため回答も的確。だから相談しやすいし、いただいたアドバイスのおかげで問題が解消したという事例は数え切れないほどたくさんあります。
また、Particleworks導入のメリットの一つとして機能追加を挙げましたが、この点に関してもKKEの貢献度はかなり高いです。
冒頭でもお話しましたが、特に導入当初は機能の不十分な点やもっとこういうことができる機能がほしいという点が多々あり、それをKKEの担当者に伝えていました。担当者はParticleworksを深く理解し、自身でも使いこなしていたので、まず我々としっかりと話ができて、機能の不十分な点について我々の意見や要望を理解してくれたし、その後それらを開発元のプロメテックにもわかりやすく伝えてくれました。その結果、本当に強化してくれたというケースが数多くあります。
単なるベンダーなら、我々の意見や要望をよく理解しないまま、右から左にプロメテックに伝えるだけなので、こうはならなかったでしょう。むしろ、我々が直接プロメテックに要請するよりもKKEの担当者が伝えてくれる方が通りやすかったですね。サポートに加え、機能改善という面でも頼れる存在で、かなりお世話になりました。
また、Particleworksの導入初期、KKEがユーザー会を作って技術研究会を主催してくれて、参加者みんなで欲しい機能などの意見を出し合っていました。それを当時のKKEの担当者が集約して開発元のプロメテックに提出したところ、その機能を1年で開発して実装してくれたこともありました。
さらに、この研究会には様々な異業種の会社の人たちが参加していたので、いろいろな分野における解析事例や困っている点、成果などを話し合っていました。自分たちだけの問題と思っていたことが全く違う分野の会社の人にとっても同じ問題だということがわかったり、解決法を教え合ったりと、異業種ながら同じユーザー同士、情報交換ができて、仲間も増えました。このような会がとても有意義で、主催してくれたKKEにはとても感謝しています。
他のベンダーとも付き合いはありますが、ユーザーのためにここまで親身になって動いてくれるベンダーは他にいないですね。
プラスチック業界の悲願達成のために、KKEと一緒にチャレンジ
― 今後の目標や展望について教えてください。
冒頭でもお話しましたが、プラスチック製品を作るプロセスは、装置に「固体原料を入れる→溶かす→流す→固める」ですが、この中で「溶かす」の部分だけは最も難しい現象で理論的に解くことができず、予測もできません。つまり、現時点ではプラスチックが溶ける一連のプロセスを解析できるツールが世界に存在しないのです。
このプラスチックが溶けるフェーズをParticleworksで理論的に解析、予測できるようになれば、プラスチックを作る全体のプロセスの解析が可能となります。そうなれば、いちいち実験で最適化を図る必要性がなくなるので、劇的なコストダウンと省力化が実現できます。ゆえにこれは当社だけではなく、プラスチック業界全体の悲願なのです。
しかしこの問題はものすごく難解なので、現時点では本当に解析可能か否かすらも正直わかりません。しかし、プラスチック業界に貢献したいので、KKEと一緒にParticleworksの機能開発にチャレンジを始めたところです。KKEにはこれまでと同じく、多大なる協力をいただけるものと期待しています。
取材日:2022年3月 | |
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株式会社日本製鋼所について | 創業:1907年 本社所在地:東京都品川区 ホームページ:https://www.jsw.co.jp/ |
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