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Meiji Seikaファルマ株式会社 様 iGRAF導入事例

粉体シミュレーションソフトウェア「iGRAF」導入事例
Meiji Seikaファルマ株式会社 様



Meiji Seikaファルマ株式会社
(左から)製薬研究所 ジェネリック開発室一G 橋本拓郎氏、製薬研究所 創剤研究室一G 丸山敦也氏、
製薬研究所 創剤研究室一G 前田了氏、技術統括センター 製剤G 佐瀬正則氏、
製薬研究所 ジェネリック開発室一G長 兼重順一氏、製薬研究所 ジェネリック開発室一G 横山雄途氏




「『iGRAF』によって製剤工程における粉体落下時の分級の理解がすすみ、
スケールアップ時の課題を解決する道が開けました」

会社ロゴ_Meiji Seikaファルマ株式会社 様

重点領域である感染症・中枢神経系疾患などの新薬とジェネリック医薬品の開発・製造・販売を展開し、人々の健康と生命を支え続けているMeiji Seika ファルマでは、製剤工程における粉体や流体の挙動をシミュレーションするために、構造計画研究所(KKE)が開発した粉体・流体シミュレーションソフトウェア「iGRAF」を導入した。導入のきっかけや成果、今後の活用計画について、同社 製薬研究所の前田了氏、横山雄途氏、丸山敦也氏、(橋本拓郎氏、技術統括センターの佐瀬正則氏)に話をうかがった。

ペニシリンにはじまる抗菌薬のパイオニア

― まず御社の事業内容について教えていただけますか。

製薬研究所 創剤研究室 一G 前田了氏

Meiji Seika ファルマは明治グループの中で医薬品セグメント事業を担っており、2021年に発表した「健康にアイデアを」というグループ共通のスローガンのもとに、幅広い製品ラインアップを通じて、CURE(なおす)・CARE(まもる)・SHARE(わかちあう)のサイクルで、ひとりの健康をみんなの笑顔につなげていく「meijiらしい健康価値」の提供に日々取り組んでいます。

製薬企業としての当社の歴史は、1946年に感染症の治療薬であるペニシリンの製造を開始したことで始まりました。それ以来、感染症領域のリーディングカンパニーとして、治療のための抗菌薬、中枢神経系疾患の治療薬、新領域としてのがん治療薬やバイオ医薬品、ジェネリック医薬品の研究開発や製造販売に取り組んでいます。また、近年ではKMバイオロジクスをグループに迎え、感染症の予防薬であるワクチンに着手し、感染症では予防から病気の治療という幅広い領域で皆様の健康に貢献しています。

― 錠剤の開発と生産とは、どのようなものなのでしょうか。

錠剤とは医薬品の剤形の1つで、一定量の薬を正しく服用でき、且つ誰でも容易に持ち運べる点で優れており、汎用されている剤形です。この錠剤には多くの場合、薬である有効成分のみでなく、その薬が適切に効果を発揮するために必要な添加剤(他の材料)が配合されることから、1つの錠剤の中に適切な量の薬と各添加剤が均一に含まれていることがとても重要です。

この錠剤を設計し、開発することが私たちの仕事の1つですが、初めは設計した錠剤は実験室レベルの小さなスケールで製造しますが、将来的には多くの錠剤を必要な方にお届けするために、工場で大量に生産できるようすることも私たちの仕事です。

スケールアップ時に発生する現象をシミュレーションで検討したい

― どのような経緯でiGRAFを導入されたのでしょうか。

1つの錠剤の中に、薬と各添加剤とが均一に含まれていることは、医薬品としてとても重要です。この均一な錠剤は、初期の小スケール検討時も、工場のような大きなスケールで生産する際も、いずれも均一なものを製造する必要がありますが、特に大きなスケールでは、様々な工夫が必要な場合があります。

製薬研究所 ジェネリック開発室一G 横山雄途氏

例えば、工場では取り扱う量が多いため、小スケールでは手作業で行っていた作業が自動化されます。その自動化の一例としては、粉体を配管内で落下させたり、空気輸送などで搬送したりすることがありますが、この粉体の搬送により、均一に混ざっていた薬と各添加剤とが均一ではなくなってしまう(分級してしまう)ことがあります。この解決のために、種々の実験や過去の経験を活用し、最適な輸送方法を設定してきていましたが、実験にかかる労力や期間も、使用する原料費も大きいとの課題がありました。

そこで、生産時の粉体の搬送に対し、粉体の特性を踏まえた事前の課題抽出や、課題が発生した際の最適な解決手段の提示を効率的に行うために、コンピューターシミュレーションを導入することを考えました。まずはコンサルティングを活用し、各製剤の製造工程の中で課題となりうる工程の抽出を行い、その後コンピューターシミュレーションツールとして「iGRAF」を導入し、業務での活用を進めているところです。

― 導入時のハードルなどはありましたか。

デジタルツールの発展が著しい中で、当社でもデジタルツールの有効活用は推進されています。その中で、私たちの課題解決には「iGRAF」が適していることを社内で共通認識とするために工夫が必要でした。その工夫とは、他社事例や一般論の説明だけでなく、「iGRAF」を使うことで得られる成果を具体的に示したことです。

この「iGRAF」導入前の具体的な成果の獲得には、KKEにシミュレーション業務を委託するという形でご協力頂きました。この委託試験により、他社事例だけでなく、自社の事例を活用した具体的な成果を示せた結果、社内でも注目され速やかな導入の達成に繋げることができました。

粉体の落下時に発生する分級に寄与する要素を解明

― どのように活用を進めていらっしゃいますか。

粉体を落下させるなどの粉体搬送時の分級(均一性の崩れ)については、原薬と各添加剤の粒度差や密度差など、どのような要素が分級に寄与するのかに着目し、解析を進めています。また、シミュレーションと、実際のデータが一致することを確認するすり合わせも適宜実施していますが、導入の成果として私たちに大きな気付きを与えてくれる点は、iGRAFは粉体の動きや空気の流れを可視化できる点です。

これまでは落下させた後の粉体の評価を行うか、落下時の動画を観察することしかできませんでしたが、iGRAFの導入により、落下時にどの粉体がどのような動きをしているのか、またその動きに寄与するものは何かを、詳細に目で見て考察できるようになった点が、私たちにとって大きな情報でした。これらの情報は、事前の課題抽出や、課題発生時の解決の方向性を立案する際に非常に役立っており、私たちの技術レベルを向上させる情報として有効活用しています。

なお、現在は初期のモデルケースに続き、様々なタイプの粉体を用いた場合についてのシミュレーションを行い、実際に実験する前に、新規開発品の分級リスクを評価できる系の構築や、混合工程のシミュレーションを目標に、活用を継続しています。

配管内を自由落下する
混合粉体(偏析あり)
配管内を自由落下する
混合粉体(偏析なし)
落下前の均一分散状態の混合粉体 落下後の偏りが生じた混合粉体


動画:配管内を自由落下する
混合粉体(偏析あり)
動画:配管内を自由落下する
混合粉体(偏析なし)


― 「iGRAF」のよい点はどんなところですか。またソフトウェアおよびKKEへの要望もお聞かせください。

「iGRAF」は、SOLIDWORKSで作ったCADデータを読み込めば自動で壁などの構造物を作成してくれるため、他の解析ソフトウェアより少ない手間でシミュレーションができる印象です。また、他のソフトウェアだと計算領域のメッシュを設定しなければなりませんが、「iGRAF」は直感的に使うことができる点で使いやすいです。

製薬研究所 創剤研究室 一G 丸山敦也氏

ソフトウェアに対する要望としては、粗視化により計算負荷がかなり低減されているものの、実際に生産する際のスケール(粒子数)でのシミュレーションは、粒子数が多く計算に時間がかかる点が改善できるとありがたいです。ただ、結果に影響しない範囲で、取り扱う粒子数を少なくしても知りたいことは知ることができるとアドバイスを頂いており、現在の試験計画に反映しています。

一方で、実際に製造する粒子数でのシミュレーションができることは、より説得力ある結果にもつながるとの考えもあり、今後、様々なケースの経験を蓄積し、結果に影響しない範囲での妥当な粒子数のスケールダウンについて、整理していきたいと考えています。

その他、ソフトウェアの使い方の点では、初歩的なトラブルシューティングを更に充実していただけるとありがたいですね。当社に限らず、初歩的なところで悩んでいるユーザーの方は多いのではないかと思います。例えば粒子が発散してしまうことがあります。これはばね定数や計算のタイムステップの値によっては粒子同士が過干渉となり、計算がうまく進まない場合に発生します。この微調整が難しく、使い始めは粒子の初期配置すらできないといったことがありました。

議論を重ねながら理解を深めていく

― 多くの人を巻き込んで先進的な活用をされているように感じます。

新しいツールが課題の解決に有効であると判断された場合には、積極的に活用し、医薬品の最短での開発及び安定供給に役立てています。なお、明治グループ内には、食品を扱っている株式会社 明治、ヒト及び動物用ワクチンや血漿分画製剤を扱っているKMバイオロジクスなど、同様の技術を活用して研究開発及び製造を行っている会社があります。技術を核としたグループ内での議論も有効活用しながら、明治らしい活動を目指しています。

― 粉体シミュレーション分野の権威である東京大学の酒井幹夫教授のアドバイスも受けていらっしゃいますね。

東京大学の酒井教授にも、「iGRAF」のシミュレーション業務についての意見交換や進捗の相談にご協力いただいています。議論を重ねることで、粉体シミュレーションを活用する上でのさまざまな気付きに繋がっています。例えば、作成した試験計画の妥当性の判断や、シミュレーションの結果に対するより深い考察、シミュレーション結果と現実の結果のすり合わせ方法などについて、有用なご助言を頂いています。

―今後はどのような活用のステップに移ろうとしていますか。

技術統括センター 製剤G 佐瀬正則氏

何よりも最短で新しい医薬品を市場に供給すること、また供給している医薬品を安定に市場に供給し続けることが、私たちに求められている使命です。この使命の達成ために、シミュレーションを効率的、且つ効果的に活用していきます。

具体的には、現在は既存品の粉体特性に即したシミュレーションに留まっていますが、今後、いくつかの代表的な粉体特性でのシミュレーションをデータベース化し、錠剤の設計段階から、生産時に発生するリスクを見据えた開発を実践することで、医薬品開発の精度とスピードを上げたいと考えています。この取り組みにより、困っている方に、できるだけ早く私たちが開発した医薬品を安定に提供することを実現したいと考えています。

製剤工程において適用できる場面はたくさんある

さまざまな製剤工程及びメンバーに「iGRAF」の活用の輪を広げていきたいと考えています。既に取り組んでいる粉体の搬送、落下及び混合の他にも、造粒、打錠、コーティングなど、医薬品の製造工程には粉体を用いた様々な工程があります。「iGRAF」を活用することで、今までは見ることができなかった、粉体の動きや機械が変わったときの粒子の挙動の変化を知りたいと考えています。早期の医薬品の開発段階から適切なシミュレーションを活用することで、実験室での製造から工場での生産にスケールアップする際の確度とスピードを上げたいと考えています。

―今後の抱負をお聞かせください。

デジタル技術の進化が著しい昨今、シミュレーション技術などの新しい技術を効率的及び効果的に活用し、私たちが開発した医薬品を必要な方に最短で、且つ安定に供給することで、社会に貢献していきたいと考えています。また、自社に導入した「iGRAF」を十分に活用し、その事例をグループ内のみでなく世界の方々と共有することで、粉体を扱う業種全体の技術力向上に、少しでも貢献できることを目指したいと考えています。




取材日:2023年6月  
Meiji Seikaファルマ株式会社について 設立:1916年10月9日
本社所在地:東京都中央区
ホームページ:https://www.meiji-seika-pharma.co.jp/
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