CASE
国立研究開発法人産業技術総合研究所 様 導入事例
粉体シミュレーションソフトウェア「iGRAF」導入事例
鉱物資源研究グループ 研究員 綱澤有輝氏
「iGRAFで複雑な粉体挙動のシミュレーションを実現。
粉体工学の可能性を広げ、鉱物資源の安定供給につなげたい」
国立研究開発法人産業技術総合研究所内の鉱物資源研究グループでは、私たちが社会生活を営む上で欠かせない鉱物資源について日々研究・開発している。鉱物資源の効率的な活用のためには粉体シミュレーションが有効だが、ニッチな分野であるため不明点や課題も多い。そこで、東京大学の酒井幹夫准教授監修のもと、構造計画研究所(KKE)が開発した粉体シミュレーションソフトウェア「iGRAF(アイグラフ)」を導入した。実際にiGRAFを使用して感じた強みや使い勝手、成果などについて、鉱物資源研究グループ研究員の綱澤有輝氏に語っていただいた。
鉱物資源の分離プロセスにシミュレーションを活用
― 綱澤さんは産業技術総合研究所でどのような研究を行っているのですか?
私が所属する地質調査総合センター地圏資源環境研究部門鉱物資源研究グループでは、日本の資源、エネルギー問題の解決を目的として、鉱物資源の研究・開発を行っています。その中で、学生時代に研究していた粉体シミュレーションを応用してさらに高度な研究や技術開発、プロセスを作るのが私のメインの業務です。
― iGRAF導入に至った経緯を教えてください。
鉱物資源を原材料に加工するまでにはいくつかのプロセスがあります。例えば銅鉱石の場合は、銅が塊の状態で鉱山に埋まっているわけではなく、岩石中にわずか1%ほどしかない銅鉱物を分離して取り出す必要があります。
最終的には化学的に溶かして銅を作りますが、銅を抽出するために、岩石全てを溶かすのは莫大なコストがかかります。そこで、まずは鉱山から採掘された岩石を細かく粉砕し、銅が含まれている部分と含まれていない部分を分ける、選鉱と呼ばれる分離操作を行います。
選鉱では、数10μmから数mmの粒子を分離するのですが、選鉱装置の中の粒子挙動を把握することは非常に難しく、まだ解明されていないことも多くあります。そのため、選鉱プロセスの多くは経験則に基づいて行われているのが現状です。この選鉱プロセスに粉体シミュレーションを使えば、装置内の粒子挙動を可視化することができ、高効率で高精度な選鉱プロセスの開発につなげることができます。
こうした課題を抱えていた折、博士課程の時に師事していた粉体シミュレーションの世界的権威である東京大学の酒井幹夫准教授から、ご自身が開発に関わった粉体シミュレーションソフトウェア「iGRAF(アイグラフ)」をご紹介いただきました。機能や性能を聞き、これなら抱えていた課題を解決できると思い、2019年12月に導入しました。
粉体と流体が複雑に絡み合う現象を解析できる
― 実際に使ってみていかがでしたか?
予想通り、粉体解析にとても役立ちました。機能面における強みの一つは、複雑な形状をした装置内の粉体挙動を計算できることです。
この機能は、他の商用の粉体シミュレーションソフトウェアには実装されていない、iGRAF独自のものです。
もう1つの大きな強みは、粉体挙動や流体挙動、さらには粉体と流体が複雑に絡み合う現象を解析できる点です。粉体の粒子挙動だけを解析するソフトウェアなら数多くありますし、自らも学生時代にプログラムを書いて作っていました。しかし、固体、気体、液体の複雑な相互作用を考慮した連成解析を実現できるソフトウェアは他になかなかありません。
ゆえにiGRAFを使うことで、かねてから取り組みたいと思いつつ実現できていなかった、比重分離のより高度な解析などが可能となり、今まで計算できなかった対象のデータが取れたことで研究を進めることができました。これがiGRAF導入の最大のメリットですね。
さらに、iGRAFは酒井先生の研究室で開発され論文にもなっている物理モデルがベースになっています。そのため、モデルの妥当性が担保されており、また中にどのようなモデルが入っていて、どのような計算がされているのかを理解して使えるため、計算結果にも信頼が持てます。この点も私にとって大きな利点です。
― iGRAF導入の成果は?
私が注力している研究の一つである、粉体の比重の違いで分離する「比重分離」というプロセスに対する知見を深めることができました。先ほど述べたように、密度や形状が違う粉体の分離については経験則から脱していない部分が多くあったのですが、iGRAFでそれらの挙動を可視化することで、分離のメカニズムや分離に最適な装置条件などを突き止めることができたのです。
さらにかねてより実施したいと思っていた、より複雑な粉体シミュレーションにも活用しています。例えば、ポットブレンダーと呼ばれる、回転と揺動を同時に行う混合機があるのですが、その内部での粉体挙動についてはやはり十分な知見が蓄積されていませんでした。これもiGRAFにより、様々な条件のもとで粒子の混合過程や速度を可視化することで、その混合機構を解明することにつながりました。
こうした研究成果は、論文として国際科学誌にも採択されています。
iGRAFは2021年12月にバージョンアップして、私の研究対象である非球形の粒子の解析もできるようになりました。球形と非球形の差を調べたいのですごく楽しみにしています。
― 使い勝手に関してはいかがですか?
パラメーターの入力、解析、アウトプットまで不自由なく使えました。想定していたアウトプットデータを解析結果のファイルから抽出して、目指すべき結果に加工する部分も問題なかったです。総じて初めてでも使いやすいソフトウェアだと感じました。
iGRAFによるポットブレンダー内の粉体シミュレーションの様子 |
粉体シミュレーションの可能性を広げ、知見の実用化につなげたい
― 今後の展望について教えてください。
先ほどお話しした論文で研究対象とした混合機は、研究室で使う小型の物なのですが、実際の産業プロセスではもっと大型の物になります。
ですので、ラボサイズの装置で見られたものがスケールアップした産業機器でも正しく再現できて、かつ制御できるのかというテーマに、数値解析を使ってチャレンジしたい。ラボで得られた知見を実産業に活かし、いずれは資源の安定供給につなげたいと考えています。
また、自らの研究分野のみに閉じず様々な他分野との知見を融合させ、共同研究を展開していきたいと考えています。視野を広げて粉体シミュレーションの可能性を模索しながら研究テーマを立ち上げることで、粉体工学の認知向上に加え、社会貢献の幅も広げていきたいと考えています。
iGRAFは間違いなく今後の研究にも役に立つので、末永く使い続けていきたいと思っています。今後ともよろしくお願いいたします。
取材日:2022年1月 | |
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国立研究開発法人産業技術総合研究所について | 設立:2001年 所在地: 東京本部:千代田区 つくば本部:茨城県つくば市 ホームページ:https://www.aist.go.jp/ |
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iGRAFによるシミュレーションで、様々な課題発見、試験回
もっと詳しく数の大幅削減による効率化、生産性の向上などを実現できました
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